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日本円ステーブルコイン「JPYC」の法的位置付けとそのリスク
価格が日本円とほぼ連動する実質的な日本円ステーブルコイン「JPYC」の販売が開始されてから3日が経過した。
SNSでは仮想通貨ユーザーが待望の日本円ステーブルコイン登場の報に沸き立ち、今後の発展への期待の声が飛び交っている。UniswapをはじめとするいくつかのDEX(分散型取引所)ではすでにJPYCの取引が可能となり、実際の交換取引も発生しはじめた。僅かながらだが相場の変動もある。JPYCはERC20ベースのトークンとして暗号資産ユーザーの間で着実に認知されはじめている状況だ。
しかし、JPYCの発行元である日本暗号資産市場株式会社(東京都港区)では同コインをあくまでも資金決済法上の「自家型前払式支払手段」であり、暗号資産ではないと定義している。
今回はこの点とそのリスクについて整理してみたい。
なぜJPYCは暗号資産ではないとされるのか
まずおさらいしておきたいのが、何が仮想通貨(暗号資産)にあたるかという該当要件だ。
日本では仮想通貨(暗号資産)の基本的な位置づけについて「資金決済に関する法律(資金決済法)」で定められているが、同法では暗号資産について要約すると次の性質を持つものと定義されている。
- 一号暗号資産
- 不特定の相手に対して代金の支払い等に使用できる
- 不特定な相手に対して購入及び売却ができる財産的価値
- 電子的に記録され、移転できる
- 法定通貨または法定通貨建の資産ではない
- 二号暗号資産
- 不特定の相手に対して一号暗号資産と相互交換できる財産的価値
- 法定通貨または法定通貨建の資産ではない
一号暗号資産はBTCやETHなどの主要コインが該当し、二号暗号資産は法定通貨とは交換できないが一号暗号資産とは交換できるその他の仮想通貨(SanDeGo等のアルトコイン)が該当する。
そして一号・二号ともに共通して該当要件とされているのが法定通貨または法定通貨建の資産ではないことだ。
JPYCは発行元が1円固定で販売し、そして1円固定で使用できる(公式サイト上でamazon代理購入サービスを受けられる)日本円建の前払式支払手段として提供されている。あくまでも法定通貨建の資産であるJPYCは暗号資産(仮想通貨)ではないという理屈だ。
暗号資産でないのであれば、暗号資産にまつわる諸規制を受ける必要もない。発行体である日本暗号資産市場(株)が金融庁から暗号資産交換業者への登録を受けることなく、ERC20ベースのトークンを堂々と発行・販売しているのもその理屈によるものだ。
自家型前払式支払手段とはなにか
では、前払式支払手段とは何だろうか。簡単にいうと事業者に対して商品やサービスの代金を予め前払いして電子的に記録されたもの、すなわちプリペイドカードやスマホゲーム内の課金ポイント等がこれにあたる。
資金決済法ではこの前払式支払手段についても細かく規定しており、発行者に様々な義務を課している。
1つは金融庁への届出・登録義務だ。
前払式支払手段には、その利用可能範囲に応じて二つの種類がある。発行者自身からの商品・サービス購入にのみ使用できる「自家型前払式支払手段」と、第三者に対しても使用できる「第三者型前払式支払手段」だ。
前者は特定のアプリ内でのみ使用できる課金ポイント等が該当し、後者はEdyやPayPay等、広く多数の加盟店で使用できるものが該当する。
資金決済法では「自家型前払式支払手段」は金融庁への届出のみで発行して良いとしている一方、利用範囲の広い「第三者型前払式支払手段」に対しては事前に登録を課している。つまり、「第三者型前払式支払手段」は当局の許可がないと開始できないのだ。
この点について 日本暗号資産市場(株) は、JPYCを「自家型前払式支払手段」であると定義し、未使用残高が法の定める届出水準(1000万円)を超えたのち届出予定であるとしている。
同法が定める発行者義務で、もうひとつ重要な点が発行保証金の供託義務だ。前払式支払手段の未使用残高が1000万円を超えた場合、発行者はその残高の50%に相当する額を法務局に供託する必要がある。これは発行者が倒産するなどの事態に際して利用者へ少なくとも半分は返金できるようにするための、利用者保護の制度だ。
JPYCは前払式支払手段として届出することとなり、この供託義務に服することになるのだ。JPYCのホワイトペーパーではこの点について、次のように記述している。
当面は資金決済法に定められた供託金の 200 %+ 1000 万円を法務局に供託いたします。供託金額が増加した場合は供託後に当社 Web ページ 等にて告知します。 これにより万一当社が倒産等した場合でも国により倒産隔離されていることから JPYC の利用者の権利は保護されると考えておりますが、当社は元本保証するものではありません。
引用元:JPYCoin(JPYC) White Paper
つまり、発行額と同額以上の金額を法務局に供託するというのだ。これはJPYCの販売代金は全てそのまま法務局に預けて自らは手を付けないということのように読めるが、この点については次ページ以降で改めて触れたい。
(次ページ:JPYCの法的位置づけの危うさ)
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KT情報ポータル運営事務局 代表・アルファ情報ポータル編集長
2018年初頭に仮想通貨と出会い、同年4月に国産コインSanDeGoの立ち上げに遭遇。以降、仮想通貨を取り巻く熱狂とバブル崩壊を目の当たりにし、「コインで持続的な楽しさを提供すること」を軸に国産コインの普及活動に邁進。SanDeGo情報ポータル、アルファフォーセット、AlphaAdService、アルファDiscord等のサービスを運営。